二人目が生まれた瞬間、家族は「三角形」から「四角形」に変わります。上の子はそれまで独り占めしていた親の愛情を、突然もう一人と分け合うことになる。

赤ちゃん返りが始まると、夫婦の間にこんなすれ違いが生まれがちです。「甘やかしすぎだろ」と言う夫、「まだ3歳なんだから受け止めてあげて」と返す妻。逆のパターンもあります。どちらかだけが正しいわけじゃない。

カップルカウンセラーとして18年、8,000組以上のご夫婦を見てきましたが、二人目の出産後に「上の子への対応」で揉めるケースは本当に多いです。ただ、ここで知っておいてほしいのは、対応が割れること自体は自然なことだということ。問題は「割れたまま放置すること」のほうなんです。

今回は、赤ちゃん返りの正体を整理したうえで、夫婦の対応のズレを対話に変える3つのステップをお伝えします。

赤ちゃん返りの正体は「安心の確認作業」

上の子が急にべったり甘えたり、おもらしが復活したり、弟や妹を叩こうとしたりする。親としてはつらい光景ですよね。でもこれは発達心理学では退行(regression)と呼ばれるごく自然な反応です。

ミシガン大学のVolling博士が2012年に発表したレビュー論文によると、きょうだいの誕生後に第一子がどんな反応を見せるかは、子どもの性格・年齢・親の養育スタイル・夫婦関係など複数の要因が絡み合って決まるとされています。つまり「育て方が悪い」の一言では片づけられません。

感情を翻訳すると、赤ちゃん返りの構造はこうなります。

  • 表面層:「ママ抱っこ!」「赤ちゃん嫌い!」(行動や言葉)
  • 感情層:「自分はもう大事じゃないの?」(不安・悲しみ)
  • 欲求層:「前と同じように愛してほしい」(安心の確認)

わがままに見える行動の奥には、「まだ愛されている?」という問いかけが隠れている。赤ちゃん返りは甘えではなく、安心確認の作業です。

夫婦の対応が割れる3つの理由

上の子への対応が夫婦で食い違うのには、ちゃんと構造的な理由があります。

理由① 育った家庭の「当たり前」が違う

「泣いたらすぐ抱っこしてもらえた家庭」で育った人と、「泣いても自分で立ち上がれと言われた家庭」で育った人。どちらが正しいかではなく、自分が受けた子育てを無意識に再現するのが人間です。

叱る派の夫も、受け止める派の妻も、それぞれの「当たり前」から出発している。このことに気づくだけで、「なんでわかってくれないの」が「そういう家で育ったんだね」に変わります。

理由② 情報量の非対称

産後は母親のほうが子どもと過ごす時間が長くなりがちで、赤ちゃん返りの変化を「線」で見ています。一方、仕事から帰ってくる父親には「点」しか見えない。今日の夕方だけ見て「甘やかしすぎだ」と判断してしまうことがあるんです。

見えている景色が違えば、結論が割れるのは当然のこと。

理由③ コペアレンティング(共同養育)の土台がない

Song & Volling(2015)の研究では、夫婦の共同養育スタイルが子どもの行動に直結することがわかっています。

  • 協力型(cooperative):互いの育児をサポートし合う → 上の子の問題行動が少ない
  • 妨害型(undermining):相手の対応を否定・口出しする → 子どもの問題行動が増加

ここが重要なポイントです。対応の中身が「叱る」か「受け止める」かよりも、夫婦が互いの対応を否定し合っているかどうかのほうが、子どもへの影響は大きい。

対応のズレを対話に変える3ステップ

まず順番を整えましょう。「どちらの対応が正しいか」の議論から始めると、永遠に平行線です。以下の3ステップで進めてみてください。

ステップ① 予告+感情から入る

いきなり「あなたの叱り方はおかしい」と言えば、相手は防衛モードに入ります。切り出すなら、子どもが寝たあとの穏やかな時間帯がおすすめです。

「上の子のことで、5分だけ話したいことがあるんだけど、今いい?」

受信準備が整ったら、Iメッセージで感情から入ります。

「最近、〇〇の赤ちゃん返りを見てて、私はちょっと不安なんだよね。二人でどう対応するか、考えを聞かせてほしくて」

「あなたが悪い」ではなく「私が不安」から始める。主語を「私」にするだけで、相手の防衛反応はぐっと下がります。

ステップ② 「どんな子に育ってほしいか」の共通ゴールを描く

叱る派と受け止める派。方法論は正反対に見えますが、裏にある願いは驚くほど似ていることが多いんです。

二人でこの問いかけを試してみてください。

「〇〇にどんな子に育ってほしい?」

「自分の気持ちを言える子になってほしい」「人を傷つけない子であってほしい」——ゴールが同じだとわかった瞬間、方法論の違いは「敵のやり方」から「別ルート」に変わります。正解はお二人の中にあります。

ステップ③ 「困ったときルール」を3つだけ決める

共通ゴールが見えたら、具体的なルールを決めます。ただし3つまで。多すぎると守れないし、息苦しくなります。

たとえば、こんなイメージです。

  1. 叩いたときだけは止める(安全ライン)
  2. 泣いているときは抱っこOK(安心ライン)
  3. 対応に迷ったら、その場では口を出さず、あとで話す(夫婦ライン)

3つ目がとくに大切です。相手が上の子に対応している最中に横から「それ違うでしょ」と言うのは、子どもの前で夫婦の足並みが乱れる原因になります。Volling博士の研究が示す「妨害型コペアレンティング」そのものです。

わたし自身も夫との間で「揉めやすい話題は子どもが寝てから」というルールを決めています。日中に地雷を踏む回数が目に見えて減りました。カウンセリングでもこのルールを提案しますが、これだけで子どもの前での衝突がかなり収まるご家庭は多いです。

赤ちゃん返りは「期間限定」——焦らなくていい

赤ちゃん返りの多くは、数か月から半年ほどで落ち着いてきます。上の子が「弟(妹)がいる生活」に慣れて、自分の居場所を再確認できれば、自然とおさまっていく。

ただし、夫婦の対応が真逆のまま放置されると、上の子は「パパとママ、どっちに合わせればいいの?」と混乱してしまいます。Frontiers in Psychology誌に掲載されたメタ分析(2022年)では、養育スタイルの一貫性がきょうだい間の葛藤を減らす要因として確認されています。

一貫性とは「まったく同じ対応をする」ことではありません。「叱る場面」と「受け止める場面」の線引きを共有していればいい。パパは遊びが得意、ママは気持ちを聞くのが得意——役割が違っても、ルールが揃っていれば子どもは安心できます。

赤ちゃん返りは親にとって試練ですが、「この子は安心を求めているんだな」と二人で共有できたとき、夫婦の対話は一歩前に進みます。焦らず、二人のペースで。

FAQ

赤ちゃん返りは何歳まで起こりますか?

一般的には2〜5歳の子に多く見られますが、小学校低学年でも起こることがあります。年齢が上がると「甘え」より「反抗」や「無関心」として表れることもあるため、行動の変化に注目してみてください。

上の子を叱ってしまった後、どうフォローすればいいですか?

「さっきは怒りすぎちゃってごめんね。ママ(パパ)は〇〇のことが大好きだよ」と、感情→事実の順で伝えてみてください。叱ったこと自体より、叱りっぱなしで放置するほうが子どもの心に残ります。

夫が「赤ちゃん返りなんて甘えだ」と取り合ってくれません

いきなり説得しようとすると逆効果です。予告型コミュニケーションで「5分だけ聞いてほしい」と切り出し、Iメッセージで「私は心配なんだ」と感情から伝えてみてください。相手の受信準備が整わないうちに正論を渡しても、届きません。

赤ちゃん返りが半年以上続いて心配です。専門家に相談すべきですか?

日常生活に支障が出ている場合(食事がとれない、登園を激しく嫌がるなど)は、自治体の子育て相談窓口や小児科に相談してみてください。第三者に頼ることは弱さではなく、次のステップです。

参考文献