9月に入ると、職場の飲み会が一気に増え始める。パートナーから「今日は飲み会がある」と一言聞いただけで、胸がじわりとざわつく——そんな夜を過ごしたことがある人は、少なくないはずだ。
「信頼していないわけじゃない。でも、どうしても気になってしまう」。この種の不安は、意志が弱いのでも、器が小さいのでもない。一次論文では、これを「愛着システムの警報反応」として説明することが多い。つまり、あなたの神経系が正常に機能しているサインでもある。
本記事では、飲み会の不安がなぜ生じるのかを愛着理論とGottmanの信頼研究から整理し、「禁止」でも「監視」でもない第三の選択肢——「信頼ルールの合意」というアプローチを提案する。
飲み会の不安は「愛情が足りない証拠」ではない——愛着システムから見た嫉妬の正体
飲み会への不安を感じると、「自分がパートナーを信頼できていないからだ」と自責に入りやすい。しかし研究によれば、不安と不信頼は別のメカニズムで動いている。
Mikulincer & Shaver(2016)の愛着理論の包括的整理では、不安型愛着スタイルを持つ人は、パートナーが「手の届かない状況」に置かれるだけで愛着システムのアラームが活性化すると報告されている。これは「浮気を疑っている」という認知的な疑念とは独立したプロセスで、自律神経系の反応に近い。「飲み会 = 離れてしまう状況」という自動的な警報が鳴ってしまうのだ。
2025年に発表されたMétellus et al.の縦断研究(322名・1年間の追跡)でも、愛着不安の高い人はパートナーのSNS活動への嫉妬が高まりやすく、それが電子的な監視行動(スマホチェック・位置情報確認など)へとつながることが確認されている。飲み会への不安も、同じメカニズムの延長線上にある。
つまり、飲み会の不安の正体は「嫉妬(パートナーへの不信)」より「不安(自分が置き去りにされるかもしれないという恐れ)」に近いことが多い。この区別が、対処法をまったく変える。
「禁止」も「頻繁なLINE要求」も逆効果になりやすい理由
不安を感じたとき、カップルがとりがちな対処法が二つある。「飲み会を禁止する」か「頻繁な連絡を求める」かだ。どちらも気持ちはわかるが、一次論文では逆効果になりやすいことが繰り返し示されている。
Weigel & Shrout(2025, Personal Relationships)の疑い確認戦略研究では、確認行動は短期的に不安を下げるが、長期的には「確認しなければ不安」という依存構造を強化することが報告されている。飲み会のたびにLINEの頻度を求めるほど、「返信が10分遅れた」という些細なことが異常事態に感じられるようになる。確認行動が確認への欲求を育てるパラドックスだ。
Glass(2003)の「壁と窓」モデルで言えば、禁止や監視は「相手の行動を管理することで安心を得ようとする」アプローチだ。これは透明性の強制に近く、自発的な窓の開放とは根本的に異なる。Gottman(1999)の信頼メトリクス研究が示すように、信頼は相手の行動を管理することでは生まれず、「相手が自発的に自分を選ぶ」経験の積み重ねから育つ。
「飲み会禁止」という選択が長期的に関係に与えるリスクも見落とせない。Gottmanは信頼を「スライディング・ドア・モーメント(岐路での選択)」の積み重ねとして定義した。相手が自発的に選ぶ機会を奪う禁止は、実は信頼の積み上げを妨げる可能性がある。
禁止でも放任でもない「信頼ルール」という第三の選択肢
「信頼ルール」と呼ぶのは、行動を制限するのではなく、お互いが「安心できる」と感じられる行動の合意を事前に作る取り組みだ。
Gottmanが「信頼のメトリクス」と呼ぶ概念がある。信頼とは、相手が「あなたの利益より自分の利益を優先するかどうか」の岐路で、繰り返しあなたを選ぶことで積み上がっていく。飲み会の後に「今日はこんな話があってさ」と自然に報告してくれる——そういう小さな選択の積み重ねが、禁止よりずっと深く信頼を育てる。
Glassモデルで言えば、ポイントは「何をしているか」ではなく「深い自己開示の窓がどちらを向いているか」だ。飲み会帰りの出来事を一番先に話す相手が誰か。それが壁と窓の方向を示している。
「信頼ルール」の例としては次のようなものが考えられる(あくまで一例で、二人の状況によって最適解は変わる)。
- 終わる時間の目安を事前に共有する
- 帰宅後に飲み会の様子を自然に話す習慣を作る
- 予定より大幅に遅れる場合は一言入れる
これらが機能するのは「強制されたから守る」ではなく、「大切な人を安心させたいからやる」という動機で動くときだ。監視への従属ではなく、自発的な選択として行われるとき、同じ行動でも信頼への効果がまったく変わってくる。
合意に至る3ステップ——「今いい?」から始める対話
ステップ1:感情ラベリング——不安の正体に名前をつける
話し合いを始める前に、まず自分の感情を言語化する。「嫉妬」「不信感」「寂しさ」「不安」——似ているようで、別の構造を持っている。
Lieberman et al.(2007)の感情ラベリング研究では、感情に名前をつけるだけで扁桃体の活動が低下し、前頭前皮質の処理能力が回復することが確認されている。「飲み会に嫉妬している」ではなく「飲み会の夜、一人でいる感覚が少し苦手だ」と言語化できるだけで、話し合いの質が大きく変わる。
ステップ2:Iメッセージで本音を届ける——「今いい?」のソフトスタートアップ
話し合いの入り方が、その後の展開を決める。Gottmanが「ソフトスタートアップ」と呼ぶ原則だ。
「なんで毎回遅くなるの?」という入り方は、相手に防衛反応を起こさせやすい。代わりに「今いい?ちょっと話したいことがあるんだけど」と前置きした上で、「飲み会の夜、正直なところ少し不安になることがある。一緒に考えてほしいんだ」と伝える——この小さな違いが、対話の着地点を大きく変える。
私自身、家庭でこの「今いい?」の一言を習慣にしてから、感情が高ぶったまま話し始めてこじれる場面が減った。研究知見は家庭でも介入可能だと、個人的にも確認している。
ステップ3:「窓の向き」を合意する——行動ではなく方向性を
最終的に話し合うのは「飲み会に行くか行かないか」ではない。「帰ってきたとき、どんな関係でいたいか」という方向性だ。
「その日のことを一番先に話したい」「遅れるときは一言もらえると安心できる」——こういった会話から始めると、禁止でも放任でもない合意点が見えてくることが多い。一次論文で繰り返し示されているように、関係の問題の69%は「永続的未解決問題」だ(Gottman & Silver, 1999)。完璧な解決を目指すより、お互いが「この人と一緒にいたい」と感じられる対話の質を守る方が、長期的には関係を守ることにつながる。
FAQ
飲み会を禁止するのはやりすぎでしょうか?
禁止行動そのものが悪いわけではありませんが、監視依存の構造を強化するリスクがあります。再現性として示されているのは、行動の禁止より「帰宅後に自発的に話してくれる」という合意の方が、長期的な安心感を育てる効果が高い傾向です。お互いの「したい」から始まる合意かどうかが判断基準になります。
毎回LINEを送ってもらうのはわがままですか?
わがままかどうかではなく、「要求されたからやる」か「大切な人を安心させたいからやる」かの違いが重要です。後者として機能しているなら、一言のLINEは信頼の積み上げになります。ただし、頻度や内容を細かく規定するほど監視的な構造に近づき、逆効果になる可能性があります。
信頼しているのに不安になるのはおかしいですか?
おかしくありません。愛着理論では、信頼の感覚と愛着システムの警報反応は別のメカニズムで動いています。「信頼しているのに不安」は、不安型愛着スタイルでよく見られる状態です。意志や性格の問題ではなく、自律神経系の反応パターンに近いものです。
パートナーが「なんでそんなことを言わないといけないの?」と怒ります。どうすれば?
Gottmanが防衛反応と呼ぶ状態かもしれません。「今いい?」のソフトスタートアップで受け入れ態勢を整えた上で、「責めているのではなく、自分の状態を共有したい」という意図を最初に伝えることが効果的です。話し合いのゴールを「ルールを作ること」ではなく「お互いの不安を理解すること」に設定し直すと、防衛が下がりやすくなります。
話し合いをしたのに、また次の飲み会でも不安になります。正常ですか?
正常です。一回の話し合いで愛着システムの反応パターンが変わることはほとんどありません。信頼は「合意した通りに帰ってきた」「話してくれた」という経験の積み重ねで、少しずつ愛着システムの警報が静まっていくプロセスです。話し合いはゴールではなく、信頼の積み上げの出発点として考えるのが現実的です。
参考文献
- Métellus, C. M., et al. (2025). Attachment Anxiety and Relationship Satisfaction in the Digital Era: The Contribution of Social Media Jealousy and Electronic Partner Surveillance. Journal of Marital and Family Therapy. — Wiley Online Library, 2025年
- Mikulincer, M., & Shaver, P. R. (2016). Attachment in Adulthood: Structure, Dynamics, and Change (2nd ed.). Guilford Press.
- Glass, S. P. (2003). NOT "Just Friends": Rebuilding Trust and Recovering Your Sanity After Infidelity. Free Press.
- Gottman, J. M., & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. Crown Publishers.
- Lieberman, M. D., et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428. — PubMed, 2007年
- Weigel, D. J., & Shrout, M. R. (2025). Jealousy and confirmation strategies in romantic relationships. Personal Relationships.






