「結婚してから、夫に奨学金の返済が残っていると知った」「毎月1万5,000円が自動で引き落とされているのを見て、なんとも言えない気持ちになった」——こういう声、実はものすごく多い。

日本学生支援機構(JASSO)のデータによると、2024年度末時点で奨学金の返還者数はのべ約497万人。総残高は9兆2,724億円にのぼる。つまり、結婚相手が奨学金を返している確率はまったく珍しくない。

言っちゃうけど、モヤモヤの正体は「お金」じゃないことが多い。本音ベースで言えば、「なんで先に言ってくれなかったの?」という共有の不在が、じわじわ信頼を削っている。この記事では、奨学金返済をめぐるすれ違いの心理と、夫婦で折り合いをつけるための話し合い3ステップを整理する。

奨学金返済にモヤモヤする3つの理由

パートナーの奨学金返済にモヤモヤする理由を分解すると、大きく3つに分かれる。どれか1つだけでなく、複数が重なっている人がほとんどだ。

理由1:「知らなかった」という隠された感

結婚前にきちんと聞かされていなかった。これがいちばん刺さる。金額の大小じゃない。「言わなかった」という事実そのものが、信頼に小さなヒビを入れる。

米国の消費者行動研究(Journal of Consumer Research, 2020年)によれば、カップルの41%が何らかの経済的な隠し事を経験しており、そのうち75%が「関係に悪影響があった」と回答している。未返済の学生ローンを隠していたケースも8%あった。金額ではなく、「隠す構造」が問題になるのは万国共通らしい。

理由2:家計への影響が「見えない」不安

毎月の引き落とし額はわかっても、残額がいくらで、あと何年続くのかが見えない。見えないものは不安を膨らませる。月1万5,000円の返済でも、残り10年と残り3年では気持ちの重さがまるで違う。

JASSOの調査では、月々の返還額は1万〜1万5,000円が最も多いボリュームゾーンとなっている。年間にすると12万〜18万円。家族旅行1回分、子どもの習い事1つ分と考えると、「たかが1万円」では済まない実感がある。

理由3:「うちの親は出してくれたのに」という育ちの温度差

これが最もやっかいかもしれない。自分の親が学費を全額出してくれた側にとって、奨学金を借りて進学する感覚がそもそもピンとこない。「なんで親が出さなかったの?」という疑問が、無意識に相手の家庭を値踏みする目線になっていることがある。

私もそうだった。夫と金銭感覚のズレを感じたとき、クロンツ博士のマネースクリプト理論を調べたことがある。マネースクリプトとは、子ども時代に家庭から刷り込まれたお金の無意識の信念のこと。「借りてでも学ぶ」も「親が出すのが当然」も、どちらも育った環境がつくったスクリプトにすぎない。正しい・正しくないの話じゃない。

モヤモヤの正体は「お金」じゃなく「共有されなかった」こと

ここで少し立ち止まって考えてほしい。奨学金返済にモヤモヤしている人に聞きたい。「もし結婚前に全部聞いていたら、同じだけモヤモヤしていただろうか?」と。

多くの場合、答えはノーだと思う。事前に知っていれば、返済計画を一緒に考えられた。家計に組み込めた。問題は奨学金そのものではなく、「共有しなかった」「聞けなかった」という不作為のほうにある。

これは、私が以前記事にした「実家への仕送り問題」とまったく同じ構造だ。仕送りそのものが悪いんじゃない。黙って送っていたことが信頼を壊す。ファイナンシャル・インフィデリティ(経済的不貞)という概念がまさにこれで、金額ではなく「隠していた」という行為が関係を傷つける。

だから、「奨学金があるなんて許せない」と怒っている人は、実は「なんで共有してくれなかったの」と悲しんでいる。怒りの下に悲しみがある。そこに気づくだけで、話し合いの入口がずいぶん変わる。

夫婦で折り合いをつける話し合い3ステップ

では、具体的にどう話し合えばいいのか。うちの場合、お金の話を突破したのは「家計簿アプリの画面をテーブルに置いた」のが最初だった。感情ではなく数字を先に見せると、主語が「あなた」から「うちの家計」に変わって、防御反応が下がる。奨学金の話も同じ方法で切り出せる。

ステップ1:奨学金の「事実」を数字で並べる

まずは感情を脇に置いて、事実を紙1枚にまとめる。

書き出す項目はこれだけでいい。

  • 残額(JASSOのスカラネット・パーソナルで確認できる)
  • 月々の返還額
  • 返還終了予定年月
  • 利率(第二種の場合)

数字が見えるだけで「あと3年か」「月1万2,000円なら組み込める」と、漠然とした不安が具体的な計画に変わる。ポイントは、「返済表を見せて」と詰め寄るのではなく、「うちの家計を整理したいから、一緒に全部並べてみない?」という誘い方にすること。奨学金だけを標的にしない。家計全体の棚卸しの一部として自然に出す。

ステップ2:お互いの「育ちのお金観」を交換する

数字を並べたあとに、ぜひやってほしいのが「お金のルーツ対話」だ。

やり方はシンプル。「うちの実家ではお金ってどういう扱いだった?」と聞き合うだけ。奨学金を借りた側には借りた側の理由がある。親が出せなかったのか、自立のために自分で背負う方針だったのか。それを聞かずに「なんで親が出さなかったの」と思い続けるのは、相手の人生を片面しか見ていないことになる。

クロンツ博士のマネースクリプト理論で言えば、「お金は汚い、話題にしない」(回避型)と「自力で稼いで返すのが立派」(警戒型)では、奨学金の意味がまるで違ってくる。相手のスクリプトを知ったからといって金額が減るわけじゃないけど、「なんで言ってくれなかったのか」の理由に見当がつく。それだけで怒りの温度がひとつ下がる。

ステップ3:「うちのルール」を仮決めする

最後に、返済をどう扱うかの「うちのルール」を決める。正解はない。夫婦の数だけパターンがある。

よくある選択肢を3つ並べておく。

  • 本人の収入から返す:家計と切り離し、個人の支出として処理する。いちばんシンプル
  • 家計から返す:「うちの固定費」として組み込む。収入差が大きい夫婦に向いている
  • 折衷型:基本は本人負担だが、育休中や収入減のときだけ家計から補填する

どれを選んでも、大事なのは「合意の上で決めた」という事実。押し付けでも丸投げでもなく、二人で話し合って仮決めする。「仮」でいい。年1回の予算ミーティングで見直せばいいから。うちでは年1回のマネー会議に「奨学金・ローン残高の確認」を正式項目に入れている。見直し周期をセットで決めておくと、「あのとき決めたのに」という硬直化を防げる。

奨学金返済を黙っていた側へ

ここまで「モヤモヤしている側」の視点で書いてきたけど、黙っていた側にも一言。

言えなかった理由、わかる。「借金がある人」だと思われたくなかった。引かれるのが怖かった。でも、隠し続けるほうが発覚したときのダメージは大きい。私自身、独身時代の口座をこっそり残していたことが夫にバレて、金額じゃなく「なんで言わなかったの」と言われた経験がある。あのときの夫の顔は忘れられない。

伝え方のコツは1つだけ。「実は奨学金がまだ残っていて、月○円返している。隠すつもりはなかったけど、タイミングを逃してしまった。ごめん」——事実+金額+謝罪。この3点セットで切り出せば、相手が受け止めやすくなる。完璧なタイミングは来ない。だから、「今日」がいちばん早い。

FAQ

奨学金は結婚前に完済しておくべき?

完済してから結婚、にこだわる必要はない。大事なのは金額と返済計画をパートナーと共有していること。JASSOの第一種(無利子)なら繰上返還のメリットも小さいため、無理に完済を急ぐより家計全体のバランスを優先したほうがいい場合もある。

パートナーの奨学金を肩代わりする義務はある?

法的な返済義務は奨学金の名義人本人にある。配偶者に返済義務が移ることはない。ただし、家計をどう運用するかは夫婦の合意次第。「義務はないけど、うちはこうする」というルールを二人で決めることが大切。

奨学金返済中に育休に入ったらどうなる?

JASSOでは、経済的に困難な場合に返還期限猶予や減額返還の制度がある。育休で収入が減った場合も申請できるため、滞納する前にJASSOのスカラネット・パーソナルから手続きするのがおすすめ。夫婦で「育休中の返済をどうするか」を事前に話し合っておくと安心。

奨学金の話を切り出すタイミングはいつがいい?

理想は結婚前だが、すでに結婚しているなら「今日」がベストタイミング。家計の棚卸しや年間予算の見直しなど、お金の話をする流れに乗せると自然に切り出しやすい。「奨学金の話をしたい」と構えるより、「うちのお金全体を整理しよう」という入口にするとハードルが下がる。

参考文献