友だちとランチしてるとき、ふと頭をよぎる。「うち、もう何年もしてないんだけど」——その一言が、どうしても出てこない。

セックスレスの悩みは、夫婦の問題のなかでも飛び抜けて「誰にも言えない」テーマです。2023〜2024年にレゾンデートル社が実施した既婚者4,000人調査によると、セックスレスの悩みを配偶者以外の誰かに相談した経験がない人は、男性で7割以上、女性で8割以上にのぼりました。つまり、ほとんどの人がひとりで抱えている。

私もそうだった。産後のレス期、友だちに「最近どう?」と聞かれても、「まあぼちぼち」で流してしまう自分がいました。恥ずかしいのか、惨めなのか、よくわからない感情がのどの奥で固まって、出てこない。この記事では、セックスレスを「言えない」心理の正体を整理して、安全に話せる場所を3つ紹介します。

セックスレスを「言えない」人は8割以上——データが示す孤立の深さ

まず数字を見てほしいです。

浜松町第一クリニックが2023年に実施した「セックスレスに関する意識と実態調査」では、日本の既婚カップルのうちセックスレス(1か月以上性交渉がない状態)に該当する割合は約51.3%。ほぼ半数です。ところが、その悩みについて誰かに話した経験のある人は驚くほど少ない。

レゾンデートル社の当事者620人アンケート(2024年公開)では、セックスレスについて「配偶者と話し合ったことがある」と答えた人すら半数に届きません。配偶者以外、つまり友人・親・専門家への相談となると、さらに少なくなる。言っちゃうけど、この「言えない率」はほかの夫婦トラブルと比べても突出しています。お金の揉めごとや義実家の愚痴は話せるのに、セックスの話だけ蓋をする。

なぜか。その理由は「恥ずかしい」の一言では片付かないところにあります。

「恥ずかしくて言えない」の正体——性的シェイム(sexual shame)という心理

心理学では、性に関する話題を開示できない心理を「性的シェイム(sexual shame)」と呼びます。2025年にSpringer Natureで公開されたEFCT(感情焦点化カップル療法)の研究では、シェイム(恥の感情)が自己開示を妨げ、親密さを損なうメカニズムが明らかにされました。恥は「自分には欠陥がある」という信念と結びついていて、話すことで相手にその欠陥を見せてしまうと感じるから、口を閉ざす。

セックスレスに当てはめると、こうなります。

パターン1: 自分の魅力不足だと思っている
「求められないのは、自分に性的魅力がないからだ」。この思い込みが、友人への相談を阻む壁になります。相談したら「あなたに原因があるんじゃない?」と言われるかもしれない。その想像だけで心が閉じる。

パターン2: 夫婦の「正常さ」を疑われたくない
周囲から見れば普通の夫婦でいたい。「レスなんです」と言った瞬間に、離婚予備軍のように見られるのが怖い。実際には日本の夫婦の半数以上がレス傾向にあるのに、です。

パターン3: 相手を「晒す」罪悪感
パートナーの性的な側面を第三者に話すことへの抵抗。本音ベースで言うと、「うちの夫、全然してくれなくて」と話す行為が、パートナーへの裏切りに感じられることもある。

この3つが絡み合って、セックスレスの悩みは「誰にも言えない」まま沈んでいきます。

ひとりで抱えると何が起きるか——孤立が生む悪循環

問題は、言えないこと自体が状況を悪化させる点です。

まず、自分の感情に名前がつけられなくなる。「つらい」のか「寂しい」のか「怒っている」のか、言語化しないまま放置すると、感情がモヤモヤした塊になって蓄積します。私自身、産後のレス期に「なんで自分だけこんなことで悩んでるんだろう」と思い続けた時期がありました。でもあれは「自分だけ」じゃなかった。8割以上が同じように黙っているのだから、見えていないだけで隣の人も同じかもしれない。

次に、パートナーとの関係にも影響が出ます。誰にも話せない不満は、別のかたちで噴き出しやすい。家事の分担、子どもの教育方針、些細な生活習慣——本当はセックスレスが根っこにあるストレスが、無関係な喧嘩の火種になる。

そして最も怖いのは、「諦め」が固定化すること。以前、曖昧な喪失(ambiguous loss)という概念でセックスレスの諦めを記事にしたことがあるのですが、あのとき気づいたのは、「諦める前に一度でも誰かに話せていたら、違う道があったかもしれない」ということ。話すことは解決ではなくても、自分の感情を外に出す行為そのものが、次の一歩をつくります。

安全に話せる場所3つ——恥ずかしさのハードルが低い順に

「相談しましょう」と言われても、いきなりカウンセリングルームの扉を叩くのはハードルが高い。ここでは恥ずかしさのハードルが低い順に3つ紹介します。

1. 書いて出す——テキスト型の匿名相談

声を出さなくていい。顔も見せなくていい。2024年7月にオープンした「夜のカフェテラス」(カムウィズ社)は、セックスレスに特化したテキスト型オンラインカウンセリングです。チャット形式なので、通勤電車のなかでも、子どもが寝たあとの布団のなかでも使える。「セックスレスです」と文字で打つだけで、のどの奥に詰まっていたものが少しだけ動きます。

ほかにも、cotree(コトリー)のオンラインカウンセリングは性の悩みにも対応しています。まずはテキストで「書く」ことから始めるのがおすすめです。

2. 専門家に話す——セックスレス専門カウンセリング

もう少し踏み込みたいなら、性の悩みを専門に扱うカウンセリングがあります。「カウンセリングルームEsolve」(東京)は性科学と心理療法を融合したセックスセラピーを提供していて、臨床心理士・看護師・助産師がチームで対応します。オンライン対応もあり。

日本性科学会」のカウンセリング室もあります。性科学の研究者が直接対応してくれるので、「恥ずかしい」と思う内容でも相手はプロ中のプロ。2026年6月現在、全国からオンラインで予約可能です。

3. パートナーに話す——でも「セックス」と言わなくていい

最終的には、パートナーと話すことが大切です。ただし、いきなり「セックスの話をしよう」と切り出す必要はありません。

私は以前、お金の話が何年も切り出せなかったとき、家計簿アプリの画面をテーブルに置いたら自然に会話が始まった経験があります。セックスの話もこれと同じ。「最近、スキンシップ減ったよね」「手をつないで寝たいな」——性行為ではなく「触れ合い」を入口にするだけで、防御反応がぐっと下がります。

話し合いの時間は5分で十分。最初の5分が安全だったという体験が、次の会話のハードルを下げてくれます。

FAQ

セックスレスの相談は何科に行けばいいですか?

まずは婦人科または泌尿器科で身体的な原因を確認するのが一般的です。心理面の相談なら、性科学を専門とするカウンセリングルームや夫婦カウンセリングが適しています。「性機能外来」「女性外来」を設けている病院も増えています。

友人にセックスレスを相談するのはアリですか?

話す相手を選べばアリです。ただし、パートナーのプライバシーに踏み込みすぎない配慮は必要です。「うちも最近スキンシップが減ってて」くらいのぼかし方で十分伝わることもあります。共感を得るだけで気持ちはかなり軽くなります。

男性がセックスレスを相談するのは恥ずかしいことですか?

恥ずかしいことではありません。調査データでは男性の7割以上が誰にも相談していないという結果が出ていますが、それは「恥ずかしいから黙る」文化の結果であり、相談した男性の多くが「話してよかった」と回答しています。

セックスレスを相談したら離婚をすすめられそうで怖いです

専門のカウンセラーは「離婚か修復か」の二択を迫ることはしません。まず当事者の気持ちを整理し、関係全体を見たうえで、その夫婦に合った選択肢を一緒に探るのが専門家の役割です。

オンラインで匿名のまま相談できるサービスはありますか?

あります。テキスト型の「夜のカフェテラス」(カムウィズ社)やcotreeのオンラインカウンセリングは、匿名・テキストベースで利用できます。顔出し不要で、自分のペースで相談できるのが特徴です。

参考文献