「演技」を続けている自分が、一番つらい

言っちゃうけど、私も「演技」をしたことがある。産後、夫との関係が少しずつ再開し始めた頃のこと。嫌じゃないのに体がついてこない。でも夫の期待に応えたくて、つい声を大きくしたり、それっぽいリアクションを返したりしていた。

その場はうまくいく。夫は満足そうにしている。でも終わった後の虚しさが、じわじわ溜まっていく。「私はいつまでこれを続けるんだろう」——そんな問いが毎回、頭の中をぐるぐる回っていました。

2024年にJournal of Sex Researchに掲載されたKrejčováらの大規模調査(欧州6カ国・11,541人対象)では、回答者の約40%が「オーガズムを演技したことがある」と答えています。アメリカの性科学者カデル博士の調査では女性の66.3%が経験ありとも報告されている。これは「自分だけの問題」じゃないんです。

なぜ「ふり」をしてしまうのか——3つの心理パターン

本音ベースで書きます。演技をしてしまう理由は、大きく3つに分かれる。

パターン1:「おかしいと思われたくない」という防衛

2022年のCooperらの研究では、演技の最大の動機は「自分が異常だと思われることへの不安」だと報告されています。感じられない自分が欠陥品みたいに思えて、それを隠すために演技してしまう。相手のためというより、自分を守るための行為なんです。

「普通の女性なら感じるはず」という思い込みが、口を閉ざす。でもこの「普通」自体が、実はかなり歪んでいます。

パターン2:「早く終わらせたい」のサイン

体が疲れている。気分が乗らない。でも断るのも申し訳ない。そういうとき、演技は「穏便に終わらせる手段」として機能します。

2025年のハンガリーの研究(Journal of Sexual Medicine掲載)では、感情を言葉にするのが苦手な人ほど演技に頼りやすいことが示されました。「今はしたくない」を伝えられないとき、体で嘘をつくしかなくなる。

パターン3:「傷つけたくない」優しさのねじれ

私もそうだった。産後レスを乗り越えてやっと再開した時期、夫が一生懸命なのに「感じなかった」とは言えなかった。せっかくの気持ちを折りたくないという優しさ。でもこの優しさが長く続くと、二人の間に見えない壁をつくります。

「オーガズムギャップ」を知れば、自分を責めなくなる

ここで、演技をやめる前に知っておいてほしいデータがあります。

Frederickらの大規模調査(米国52,000人以上)では、異性間セックスでオーガズムに達する割合は男性95%に対し女性65%。この30ポイントの差は「オーガズムギャップ」と呼ばれています。女性がオーガズムに毎回達しないのは「努力不足」でも「相性の問題」でもない。体の仕組みがそもそも違うんです。

私自身、反応型欲求(レスポンシブ・デザイア)の概念を知ったとき、大きく救われた経験があります。エミリー・ナゴスキ博士の研究によると、女性の約30%は自発的に性欲を感じるのではなく、スキンシップや心理的安心感をきっかけに欲求が後から立ち上がるタイプ。このことをスマホの記事を夫に見せて共有したら、ホッとした顔をしていた。体の仕組みに名前がつくだけで、二人とも楽になれます。

演技をやめて正直になるための3ステップ

ステップ1:「感じなかった」ではなく「こうしてほしい」に変換する

演技をやめるということは、「感じなかった」と告白することではありません。大事なのはリクエストに変えること。「もう少しゆっくりがいい」「ここが気持ちいい」。Iメッセージで伝えるだけで、批判ではなく対話になります。

Krejčováらの2024年の調査でも、演技をやめた人の多くが「パートナーに自分の望みを伝えられるようになった」を理由に挙げています。正直さの入口は、告白ではなくリクエストです。

ステップ2:ゴールを「オーガズム」から外す

セックスのゴールがオーガズムである限り、達しなかった夜は「失敗」になる。このプレッシャーが演技を生みます。

以前、産後レスから再開するとき「今月はスキンシップだけ」と夫と約束したことがある。ゴールを撤去した途端、体がリラックスして、むしろ自然な反応が戻ってきました。センセート・フォーカス(Masters & Johnsonの段階的アプローチ)と同じ原理で、目的を外すと体が安心する。「感じなきゃ」のスイッチをオフにするだけで、体の正直な反応が表に出てきます。

ステップ3:「演技してた」は過去形で共有する

勇気がいる。でも効果は大きい。

「実は前は、ちょっと演技してたかもしれない。でも最近はちゃんと正直でいたいと思ってる」——過去形にすると、相手を責める空気にならない。「今まで嘘をついてた」ではなく、「これからは正直でいたい」に焦点を移すのがコツです。

Krejčováらの研究では、演技をやめた人は性的満足度・関係満足度・人生の満足度すべてが、演技を続けている人より高いと報告されています。正直になることは関係を壊す行為じゃない。深くする行為です。

演技をやめた先にあるもの

言っちゃうけど、演技をやめた最初の夜は気まずかった。でも嘘をつかなくていい安心感のほうが、気まずさよりずっと大きかったのを覚えています。

大事なのは「感じないのが悪い」でも「感じさせられないのが悪い」でもないということ。体の仕組みにはオーガズムギャップがある。欲求のスタイルにも個人差がある。その前提を二人で共有できたら、演技なんて必要なくなります。

セックスの正解は、気持ちよくなることじゃない。二人が正直でいられること。そこがスタートラインだと、今は思っています。

FAQ

オーガズムを演技したことがあるのは異常ですか?

異常ではありません。2024年のKrejčováらの欧州6カ国調査では回答者の約40%が経験しており、カデル博士の調査では女性の66.3%が経験ありと答えています。非常に多くの人が経験している行為です。

演技をやめたら夫に嫌われませんか?

同じ研究で、演技をやめた人はやめていない人よりも関係満足度が高いと報告されています。「感じなかった」と伝えるのではなく、「こうしてほしい」とリクエストに変換すれば、否定ではなく対話になります。

オーガズムに毎回達しないのは体の問題ですか?

多くの場合、体の異常ではありません。異性間セックスでオーガズムに達する割合は男性95%に対し女性65%で、この差は「オーガズムギャップ」と呼ばれる構造的な違いです。毎回達しないことは女性にとってごく普通のことです。

パートナーに「演技していた」と伝えるべきですか?

必ず伝える必要はありません。ただし正直でいたいと思うなら、「前はちょっと無理してたかも。これからは正直でいたい」と過去形で、未来に焦点を当てて伝えるのがおすすめです。

演技をやめたいけど、感じ方がわからない場合はどうすれば?

まずセックスのゴールをオーガズムから外してみてください。「気持ちいいかどうかだけに集中する」と決めると、体の自然な反応に気づきやすくなります。それでもつらい場合は、性の悩みに詳しいカウンセラーへの相談も選択肢のひとつです。

参考文献